IoT関連技術と知財関連コラボシリーズ企画第2回 AIとデータの著作権の関係について分かりやすく解説します
目次
はじめに
コラボ企画2回目は、AIとデータの著作権について解説したいと思います。最初にAIに関するごく基本的なことを解説したいと思います。
AIとは? AIの歴史、最近のトレンドを解説
AIとは?
AIは、Artificial Intelligenceの略で、日本語に訳すと人工知能になります。人工知能自体昔から言われていた言葉なので、私は最近AIがもてはやされるようになったとき、非常に違和感がありました。昔からある言葉のAI,人工知能がなぜブームになっているのだろう?と思いました。
そもそもAIの定義は、色々有りますが、“人間が行なっているような知的生産行為を計算機=コンピュータで実行すること”がAIの定義になります。
AIの歴史
この節ではAIの歴史をたどってみたいと思います。AI自体かなり長い歴史があるゆえに、今回ブームになっているのに違和感が有ったというわけです。
最初にAIという言葉が使われるようになったのは、1956年(昭和31年)ですからもう66年前のことになります。
米国の東海岸独立13州のひとつであるニューハンプシャー州にあるダートマス大学での国際会議においてジョン・マッカーシーという当時助教授が初めてAI=人工知能という言葉を用いたのがAI誕生のきっかけになりました。
なおマッカーシーは、プログラミング言語LISPを創った人としても有名です。
この会議がきっかけとなり第一次AIブームが起きました。ところがまだまだ計算機の性能が当時は今とは比べものにならないほど貧弱であったために、AIに相当するものが出来ずにブームは数年で終わりました。
ただしその後も漫画の世界などでは人工知能という言葉が良く使われており、私も幼少の頃から人工知能という言葉は知っていました。
第二次AIブームは、1980年~2000年くらいまでありました。その頃はAIを象徴する言葉としてエキスパートシステムという言葉が良く使われていました。
第5世代コンピュータというプロジェクトも有り、筆者が新入社員の頃は、そのプロジェクトに優秀な人が投入されていました。
ファジイというブームもありました。これも広い意味ではAIの一つで、ファジイは白物家電などにキャッチフレーズとして使われました。
しかしながら、やはり理想とするAIにはまだ到達できず、またブームが尻すぼみになってしまいました。
それに対して、現在第三次AIブームといえます。いつ頃から始まったかと言えば、約10年くらい前からです。
まず2010年に“ビッグデータ”という用語が現れ、引き続いて2012年に“ディープラーニング”という概念が生まれました。
この“ディープラーニング”により、第三次AIブームは今までのAIブームとは違って、理想とする“人工知能”に向けて進化を遂げるようになったのです。
AIで最も重要な技術 “ディープラーニング”とは?
和訳すると、“深層学習”となります。これはAIによって対象となる物の全体をまず捉えた上で、その物の中身を階層的に分解して自動学習する手法であり、ニューラルネットワークという「入力を線形変換する処理単位」がネットワーク状に結合した数理モデルによって計算機自体で学習(これを機械学習といいます)していくという方法になります。
そしてこのディープラーニングは単独の計算機で行なうのでは無く、それをクラウドの高速高性能な計算機のほうで学習、演算するということにより、それを行なったのがGoogleです。
GoogleがAIの進化に大変寄与していると言うことになります。
現在のAIブームを生んだ流れの整理
ここまでAIの歴史を振り返ってみましたが、現在のAIブームはもはやブームでなく今後のテクノロジーの基盤技術として定着しました。
AI自体、10年くらい前から進化し続けているクラウドや、半導体技術の進化そのものに支えられていると言えます。
端的に申せば、AIブームの流れとしては、クラウドでのビッグデータの取り扱い→機械自体が学習をする機械学習→機械学習の一つであるディープラーニングの進化という経緯をたどっていると言えます。
最近のAIのトレンド
分かりやすいAIの例として、文章から画像を作ることが出来る“DALL・E 2(ダーリー2)”というAIが話題になっているので取り上げます。
DALL・E 2は、2015年、イーロン・マスク氏が設立したAI研究会社OpenAIが、2022年に発表したAIです。入力されたフレーズを元に、イラストや写真を創作することができます。
例えば、「宇宙飛行士」、「馬に乗る」、「写実的なスタイルで」という3つの単語を入力すると次のような画像を創作します。
原典)
「An-astronaut riding a horse in a photorealistic style」、OpenAI DALL・E 2
参考)
最新AIの描く絵が「ヤバすぎ」「個展開ける」と話題 文章から画像を生成する「DALL・E 2」、
米OpenAIが発表(ITmedia NEWS)
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2204/07/news102.html
まさに様々な絵までがAIで自由に作れるようになる時代がやってきました。
AIによって沢山の創作物、著作物が生まれる時代において、著作権が非常に重要になってきます。
(大森 正)
AIとデータの著作権の関係
データの著作権とは?
次に、AIとデータの著作権の関係をご説明します。
著作権は、書籍、絵画、音楽などの創作者の権利を保護するための知的財産権です。特許権や商標権等と異なり、出願や登録は不要であり、創作と同時に創作者に権利が発生します。世界初の著作権法は、1545年、特許権と同じベネチア共和国で制定されました。
著作権法が制定された背景は、印刷技術の進歩でした。1455年、ドイツの金細工師ヨハネス・グーデンベルクにより発明された印刷機により、聖書を始めとして書籍が大量に印刷されるようになりました。印刷物の普及は、ルネサンスや宗教改革にも貢献しました。しかし、その一方でニセモノのコピーが大量に出回るという問題も発生させました。そのため、創作者の権利を守るために、欧州を始めとして、各国で著作権法が制定されるようになりました。
1710年、英国でアン女王法と呼ばれる著作権法が制定されました。著作物の創作者に28年間独占する権利を与えるなど、現在の著作権法の原典と言える法律です。この法律は、英国文学の発展に貢献しました。この時期に「ロビンソンクルーソー」(ダニエル・デフォー作、1719年)や「ガリバー旅行記」(ジョナサン・スウィフト作、1726年)などが出版されています。
書籍などの著作物は、国境を超えて広がります。そのため、1886年、欧州10カ国がスイスのベルヌに集まり、著作権に関する国際ルールを定めたベルヌ条約を締結しました。その後、ベルヌ条約には日本を始め170カ国以上が参加しています。
このように、文化・芸術分野の保護から始まった著作権ですが、1980年代にコンピュータのソフトウェアが登場したことにより、大きく変化しました。米国は、1790年にいち早く著作権法を制定し、ベルヌ条約にも参加しています。しかし、米国は、比較的に独自の著作権制度を維持しています。
米国は自国の強い産業であるコンピュータ業界を保護するために、世界で初めてプログラムのソフトウェアを著作権法の保護対象に拡大しました。その後、米国は日本を始め各国にも働きかけたため、ソフトウェアは各国の著作権法でも保護されるようになりました。
参考)
著作権の歴史 聖書印刷からビッグデータ活用に至る軌跡を丁寧に解説
https://compliance.lightworks.co.jp/learn/copyright-history/
さらにデータベースが編集著作物として保護されるようになりました。編集著作物とは、百科事典をイメージすると分かり易いと思います。著作物が著作権法で保護されるためには、”創作性”があることが必須条件です。
例えば、料理のレシピのような単なる事実の羅列は著作権法では保護されません。しかし、百科事典は、情報の選択や配列に創作性があると判断されており、著作権法で保護されます。
参考)
著作権とコンテンツビジネス レシピサイトに学ぶ「攻めの知財」
https://compliance.lightworks.co.jp/teach/ip-copyright-education/
それでは、どのようなデータベースに創作性があると判断されるのでしょうか。データベースの創作性については、2000年のタウンページ・データベース事件が有名です。
NTTが提供するタウンページ・データベースと電話帳の創作性に対して、著作権法の保護対象になるか否か争われた裁判です。
この裁判では、創作性の例として、従来、「ゴルフ」の職業分類に含まれていた「ゴルフ・ショップ」が、ゴルフブームにより独立して分類されたことなどを創作性の例と判断しています。
参考)
「データベースと著作権」(弁護士 末吉亙)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/55/2/55_2_125/_html/-char/ja
AI創作データの著作権
それでは、AIが創作したデータは、著作権法で保護されるのでしょうか。
AIはどんどん進化し、最近では芸術作品まで創作できるようになりました。第1章でご紹介したDALL・E2のようなAIで創作された作品は、AIアートと呼ばれています。
AIが創作したデータと著作権との関係については、次の図が分かり易いと思います。
「AIによって生み出される創作物の取扱い(討議用)」(内閣官房 知的財産戦略推進事務局)、2016年1月、P13
この分類によると著作権法では、”人が介在した場合のみ創作性がある”と判断されています。そのためAIが自動生成したAI創作物は、著作権法では保護されません。
ただし、今後、このようなAI創作物の権利を保護するために、別途、知的財産制度を検討すべきという議論がされています。
例えば、欧州では、1996年「データベースの法的保護に関する指令」(欧州データベース指令)に基づき、著作権法とは別の法律でデータベースが保護されています。
欧州データベース指令は、コンテンツの獲得、検査、表示などに投資したデータベース作成者に対して、第三者の複製、貸与、オンライン転送の制限など、著作権法に類似した一定の権利を15年間与えています。
参考)
データベースの法的保護に関するEU指令 / 清水隆雄(Current Awareness Portal)
https://current.ndl.go.jp/ca1155
また、著作権法で保護されるのは、公表された著作物です。適法な引用など法律により自由に使える場合以外は、公表された著作物を利用する場合、著作権者の許可を得る必要があります。
ただし、データの著作物が公表された場合、人による創作か、それともAIによる創作かの判断をするのが困難であることも、AI創作物の問題です。
参考)
著作物が自由に使える場合(文化庁)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/gaiyo/chosakubutsu_jiyu.html
それでは、IoTサービスでAIが自動生成したデータの著作権について考えてみましょう。
第1回のブログでご紹介したIoTプロセスの例は、次の内容でした。
①モノの中に様々なセンサーデバイスを搭載して、センサーデバイスによって様々な物理的な動作などを数値に置き換えて=デジタル化します。
②デジタル化された情報をデジタル無線通信または有線通信によってクラウドを始めとするサーバーに送り、サーバーというデジタルの数字の演算が行われる場所で、様々なデータに変換します。
③変換されたデータをグラフなどに変換して見える化を実現します。さらにサーバーからモノに対して制御デジタル信号を送ってフィードバック制御をするなどの機能を実現します。
例えば、③のプロセスで「変換されたデータをグラフなどに変換して見える化を実現」する場合、AIが自動生成するのではなく、人が介在してマニュアルでデータを可視化した場合、編集データは著作権法の保護対象になり得ます。
一般的な折れ線グラフや棒グラフだけでは創作性はありませんが、イメージイラストやデザインには創作性があります。
しかし、現在の著作権法では、上記のプロセスにおいて、人の介在なくAIが自動生成したAI創作物は、著作権法では保護されません。
IoTビジネスは、複数企業の提携により行われます。そのため、データの権利については、B2Bビジネスの取引契約において、具体的な帰属や利用条件を決める必要があります。経済産業省は、2018年、「AI・データ利用に関する契約ガイドライン」を公表しています。契約条件を考える際に、参考になると思います。
参考)
AI・データ利用に関する契約ガイドラインの概要(経済産業省)
https://www.jftc.go.jp/cprc/conference/index_files/21011902.pdf
2019年、AIの深層学習を円滑にすることを目的とした著作権法の改正が行われました。しかし、AI創作物が著作権として保護される要件は変わっていません。
参考)
著作権法の一部を改正する法律 概要説明資料(文化庁)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/bunkakai/51/pdf/r1406118_08.pdf
(一色正彦)
まとめ
この記事ではAIとは何か、AIの歴史をたどったうえで、AIとデータ著作権について解説をしてきました。
AIは今後もどんどん進化すると思われます。その進化に合わせた法改正は、AIを用いたIoTビジネスにも大きく影響します。今後、日本でも、欧州データベース指令のようなデータベースを特別に保護する法律が制定される可能性もあります。
AIとデータの著作物については、今後も注目する必要があります。
次回予定
第3回 ソフトウェアと特許権・著作権の関係について分かりやすく解説します。
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